アルピニスト

登山は趣味であり、その自然を仕事にするには愚直に経験を積み勉強をする。死んでは駄目なんだ。



 

3,000メートルの岩稜に2メートルを超える雪が積もる

普段はあり得ないことだ。

常に風に晒され、雪は吹雪となって樹林帯に落ちてゆく

ほぼ無風状態で2日も3日も雪が降り続く

 

 

数年に1回の最悪気圧配置をメモして行くかしっかりと記憶してゆく、最低限のマナーだ

 

例えば悪天候を予兆する空の様子を観天望気で気が付かなければならない

 

南アルプスで大雪が降ることは極希だ。

新潟などの雪と違いパウダー状の雪が降る。

雪が湿ケっぽいのは気温が高いわけだ。

 

乾いている場合はその逆

八本刃のコルで北岳のピークは踏めないかもしれないが

たくさん降った雪で子供のように遊ぶ。

 

 

イーグルを作ったり、テントの周囲に暴風壁を築いたりする。

2メーロルを超える雪がある状態でここから動くことは出来ない。

雪が降り止み、低気圧の尻尾が風を吹かせ

 

 

この雪を樹林帯まで飛ばしてくれなければ手も足も出ない。

テントの中は結構暖かくて記録用のノートを切って将棋を作る。

そして将棋に興じる。

 

 

時間は沈沈として進まない。

そして2日分の予備食糧を食べないように

持ち込んだ食糧は普段は捨てるところまで大事に煮込んで食べる。

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悪天候は何時までも続かない、好天気に変わるその瞬間の数時間が猛烈だ

 

食糧もぎりぎりで休暇もギリギリだ。

日々書き綴る天気図は明日の朝から動ける状況を伝えてくれる。

明日は4時過ぎから朝食の準備をし、テントの撤収を行う。

 

 

そして下山を計画する。

きっとまた来年の冬は北岳に登るチャンスもあるだろう。

そう思いながらも下界がちょっと恋しくなっている。

 

 

翌朝、目が覚めて食事が終わり、空に明るさを感じ始めた時から

暴風が吹き荒れる。

テントの撤収どころの騒ぎではない。

 

 

しかしどんな状況下であろうと撤収を実行してゆかねばならない。

テントを固定したロープを固定するために雪面に打ち込んだペグが抜けない。

ロープは既に柔軟性を失っていて棒のようだ。

 

 

そんなことよりゴッグルが吹き付ける雪で全く見えない。

目出帽を被り、ヤッケの風防をしっかり紐で固定する。

手はハンガリー手袋では我慢出来ない。

 

 

その上からミトンのナイロン地手袋を付ける。

そんな状態でテントの回収作業が進むわけがない。

吐く息が目出帽の口の周囲で凍ってゆく。

 

 

住人を失ったテントはそのまま凍り付く。

全身の重みで何とか折りたたむが4倍くらいの大きさだ。

何をどうしているのか分からない。

 

 

無我夢中で兎に角、荷物をまとめて

樹林帯まで下山しなければ堪ったものではない。

2時間近く撤収作業に時間を費やした。

 

 

そのまま急いで下山してゆく。

やっと樹林帯に入り風も収まった。

ほっとして道らしき木々の間を歩いている。

 

 

あっと思った瞬間、大きな落とし穴に落ちた。

それは普段積もらない高さまで雪が降ったために

木々の枝の上に雪が積もりその下が空洞になっている。

 

 

危険ではないがその穴から這い出すのがまた一苦労だ。

 

この時点でやっと落ち着いて自分たちの姿を確認してみる

 

まず第一に目出帽が髪の毛と同化してしまい

脱ぐことが出来ない。

と言うより口から吐かれた息がその周囲をすべて氷で覆っている。

 

登山靴は無理矢理履いたオーバーブーツと共に氷の塊と化している。

ここで大きな休憩を取りキスリングザックの中を整える。

身繕い溶けた物から剥ぎ取ってゆく。

 

 

衣服の中は汗だらけだ。

がむしゃらに走り続けてきたわけだから風がなくなれば

体温は急上昇する。

 

 

このように自分の置かれている状況が常に急変する。

着衣は出来る限り重ね着をしてその都度調整をしなければならない。

たかが天気図だがテレビがないところで

聞き取りながら描いていかなければ

 

 

明日明後日の行動予定を決めかねるし、場合によっては命を失う。

常に四方八方に気を配り、

普段から尋常ならざる体力を身に付けていなければいけない。

 

 

今回の山行でもチャンスがあれば直ぐに訓練を行う。

雪洞で寝たのは初めてだ。

そして初めて経験する山中での最悪の荒天。

 

 

しかし体力も尋常ならざる程に身に付け

何度かの訓練を通し、危険を平気に替えている。

絶対に遭難しない。

 

死なない。

 

そんな自分たちを作っている。

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