落陽
しぼったばかりの夕陽の赤が
水平線からもれている
苫小牧発・仙台行きフェリー
あのじいさんときたら
わざわざ見送ってくれたよ
おまけにテープをひろってね
女の子みたいにさ
みやげにもらったサイコロふたつ
手の中でふれば また振り出しに戻る旅に
陽が沈んでゆく
女や酒よりサイコロ好きで
すってんてんのあのじいさん
あんたこそが正直ものさ この国ときたら
賭けるものなどないさ
だからこうして漂うだけ
みやげにもらったサイコロふたつ
手の中でふれば また振り出しに戻る旅に
陽が沈んでゆく
サイコロころがしあり金なくし
フーテン暮らしのあのじいさん
どこかで会おう
生きていてくれ ろくでなしの男たち
身を持ちくずしちまった
男の話を聞かせてよ
サイコロころがして
みやげにもらったサイコロふたつ
手の中でふれば また振り出しに戻る旅に
陽が沈んでゆく
作詞 岡田まさみ 作曲 吉田拓郎
石巻へ行った帰り、仙台港に寄ってみた ふと吉田拓郎の落陽を口ずさみ クルマと共にフェリーに乗ってしまった
この曲が良いか悪いかは個人の感受性の問題。
歌の主人公は決して万人に好かれるわけではない。
ただ、日本経済の発展に小さいながらも貢献した。
詩とは逆だが本当は本命コース
そんなじいさんに強烈な愛着を感じた。
苫小牧から仙台ではなくコースは逆だ。
その逆を辿るわけだ。
日暮れと共に出港する。
これが結構沢山クルマが乗っている。
一般客室のタタミの上に
人ははほとんどいない。
気分だけワンカップ酒を
3つ買っておいた。
眠りにつき朝起きれば
苫小牧に着いている。
フェリーの使い方としては
晴海から苫小牧に行くコース
東北道を仙台まで走って
仙台港から乗船するコース
青森から函館までとある。
現実的には苫小牧から千歳空港、札幌に向かうことを考慮すれば苫小牧は良い立地だ。
現代人は船を使うことはことさら少ない。
石炭から石油に変わったように見捨てられている。
たまたま”落陽”を思い出したので乗船する機会を得た。
但し、夜の水面は何も面白くない。
これで遠景に漁り火でも見えれば感傷にふけりながら酔うことも出来た。
自動車が格納されている場所はワイヤーロープで固定されてはいるがきしむ音が不気味だ。
天候が安定していたので揺れもなく静かに船は疾走していた。
しかし、うとうとはするが寝付けない。
苫小牧から札幌に向かう10トン以上の運搬車やコンテナー車が多いせいか
アスファルトが凹んで轍になっている。
実に運転しにくい。
今日はいきなり北海道に来てしまったのでこの先の計画や洗濯もしなければと思いホテルを2泊とった。
札幌で北海道の情報を収集する。
衣類は下着を含め8日間分を積んである。
1週間単位でコインランドリーを見つけて
洗濯する必要がある。
乾燥はクルマの後席に投げ出しておいて
30分も走れば直ぐに乾燥する。
その後、ホテルにチェックインして
地元の人が集いそうな近所の酒場に入る。
つまみを幾つか頼んだ。
その中の【山芋の千切り】が出て来た。
何か変で「わさびにしょうゆ」とお願いした。
その一瞬、周囲の目が俺に釘付けだ。
その眼差しは異国人を見るような目付きで恐かった。
よく見ると山芋の千切りは酢醤油で食べるようだ。
昔、冬の御嶽山で先輩と【納豆に砂糖をかけるかかけないか】
それで喧嘩した記憶が蘇る。
食習慣の違いは黙って受け入れよう。
また別の店へ行きお腹も満ちて酔いも回ってきた。
タクシーでホテルまでもどる際
運転手さんに取り締まり状況を聞く。
「お客さん、北海道を走るには
レーダー探知機を付けなければいけませんぜ。」
特に主要都市に入る時と出る時は
必ずスピード違反の取り締まりをしている。
翌日はオートバックスを探し探知機を
買いに行く予定が出来た。
社員旅行や決められた移動ではないので
行きついた場所での日常が確実に伝わってくる。
これも自由な旅の良さかもしれない。
ゴールデンウィーク明けの最も良い季節
しかし北海道は海沿いだけを移動する。
まだ雪がたくさん残っている訳です。
札幌から時計回りで一周回ることに決める 残念だが知床へは近づけない
丁度、一周して再び札幌に戻って2,800kmになる。
どんなことと出会えるのか楽しみである。
札幌を9時頃出発する。
いきなりレーダー探知機が鳴り出す。
そこそこクルマの量も多いので
制限速度内で走っている。
タクシーの運転手さんの言うとおりである。
留萌市内に入る時にも探知機が鳴り出す。
スピード違反の取り締まりである。
結局何処でトラップを仕掛けているかが
解っているので余り意味が無いようにも思える。
人が多い場所は気を付けなさいと言うこと。
左に常に海を見ながら
右に山を見て走り続ける。
何もない真っ直ぐな道である。
時速200km超で走っても
何も起きない道路にも思える。
そしてどこかに車を止めて
見物するようなところもほとんど無い。
たまにおかしいなと思うとキタキツネが
道路の真ん中でこっちらを睨み付けている。
日差しが強く車の中はとても暑い。
エアコンをかけているので
半袖のポロシャツでもOKだ。
それでいて山側はちょっと入ると
雪の壁で塞がれている。
北海道の距離感や1時間で
どれ程移動出来るかが解らない。
今日は何処まで行くのか
そして何処に宿を取るのかも
全く予想出来ない。
右側にサロベツ原野を認識しながら
午後2時過ぎには稚内で宿探しをし
今日の終点にしなければならない。
木造の古い宿があった。
車を止め、声を掛ける。
「すみません~」
玄関を入っても誰もいない。
外の日差しが強く室内の暗さに眼が馴染まない。
5分ほど経過しただろうか。
奥から40代後半位の女性が不思議そうな顔で出て来た。
「今日、泊めて頂けますか?」
「どうぞ」
「助かりました。」
「‥‥‥」
「お客さん、寒くないの!」
「ここはまだ朝晩に氷が張るんだよ!」
ジーパンに白の半袖ポロシャツを見て
強烈な違和感を感じたのであろう。
その日の晩は鍋料理と布団は2枚
気が付けばまだまだ完璧な冬なのだ。
荷物を降ろし、それでも時間が早過ぎたので
納沙布岬まで行ってみた。
これは広大なパーキングに2メートルほど残雪がある。
そこに車1台だけ通れる道が除雪され岬の先端まで行ける。
その突端に1台の車が止まっている。
太陽は西の海に半分沈みかけており
1台の車の中にシルエットを映しだしている。
若いカップルがなんと車の中で接吻をしている。
感動的だなと思いながらも野暮な俺は
その場を速やかに去るべきだと気付いた。
広大で人口密度が低く訪れた時期もまた絶妙である。